ホールケーキ

誕生日に家族で食べるホールケーキが、いつの間にか小さな一人ずつのケーキに変わっていた。それぞれの好きを食べられるからみんな幸せ。妹の好き嫌いに気を遣わなくていいから楽。

でもやっぱりホールケーキが好き。みんなで歳の数だけろうそくを刺す。暗闇に光が揺れ、蝋の溶ける様子を見つけて急いで歌を歌う。おめでとう~!と言われながら火を吹き消す。ろうそくの煙は幸せなにおいがする。一つのまん丸のケーキを、父が切る。誕生日のプレートは、先に私のお皿に置いておいてくれる。崩れやすいそのまん丸を丁寧に切っていく。いち、に、さん。その中で一番に大きい三角を私にくれる。崩れないように、フォークで支えてゆっくり。そんないびつな三角が好きだった。

みんなで同じものを食べるということに、大きな意味があると思う。口の中がみんな一緒の味、頭ん中がみんな同じ甘さ、おいしくてもおいしくなくてもそこには幸せ。言葉よりももっと深いところでつながれているように感じる。ホールケーキで命を分け合う。